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しかし、みつかるのは昆虫ばかりで、魔法使いであり錬金術師でもあるマスターをよろこばす代物はみつからなかった。
三、四日みつからないのはあたりまえのこと。少年は気にも病まず、すでに二回往復した島の周辺をもう一度見回ってみることにした。
島は赤道直下の群島のひとつで、少年と魔法使い以外、人間と呼べるものはただのひとりも住んでいない。
このネクアグアに魔法使いがきて以来、近在の島民たちはネクアグアを呪われた島といって近寄らなくなった。
魔法使いの研究がその発端であろう。魔法使いは、キメラや無から生命を生みだす錬金術に魅せられていた。
島にはその失敗作や神々しいばかりに美しい傑作が徘徊している。
少年・オムホロスは前腕でぐいと顔の汗を払い飛ばした。
たしかこの近くにわき水があるはずだった。そろそろ水を飲みたくなってきた。塩からい唇をぺろりとなめ、片手にもったなたで茂みを無造作に振り払った。
形ある風のようにコトドリがみごとな尾羽根をひらつかせて視界を横切っていった。
先客がいたようだ。一匹のキメラが水を飲んでいた。
馬の首をもつ、女のセントール。巨大なはげたかの翼をたたみ、オムホロスの出現に警戒しているようだった。
オムホロスはメスキメラに優しく話しかけながら、泉のほとりにひざまずいた。
しかし、畸型したセントールは飛べもしない翼を羽ばたかせ、走り去っていった。
オムホロスは冷たいわき水に両手をさしいれ、水を汲みとった。音をたててうなじから頭までびしょぬれにし、上半身のほてりを冷やした。
かすかなふくらみをもつ胸を流線形にしずくがたれおちていく。
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