雪の降らないこの街で…

2/12
前へ
/14ページ
次へ
『べっぷー…べっぷー…』     温もりの欠けた女のアナウンスがホームに響き電車は停まった。     白いコートに身を包みピンクのマフラーに顔を埋めながら暖かい車内からホームへと足を踏み出した。     「寒っ…。」     冷たい空気が一気に私を包み込んだ。     私は優羽(ゆう)。 もうすぐ20歳になる。 今日、この場所に来たのには理由がある。     私は階段を一段ずつ丁寧に降りてゆく。 手を添えた銀色の手摺は冬の寒さに凍えて冷たくなっていた。     コートのポケットから切符を取り出し改札を潜った。     改札を出たその先に彼がいた。     彼の名前は州(しゅう)。 私と同い年。 背は高いがカッコよくはない。     「よっ!結構早かったじゃん。」     州は右手を挙げ私に言った。     「まぁね。」     私はにかっと笑って見せた。     「つーかマジ寒くね?」     州は歩み寄る私に肩を震わせながら言い放った。 私はコクンと頷き、     「寒い…。」     と小さく言った。     駅は人で溢れかえっている。無理も無い。 今日はイヴだ。     手を繋いだ恋人達が駅の東口へと流れていく。     今日、この街でXmasイベントが行われている。      〝冬に上がる花火〟     みんなそれを見に来ている。 私達も同じだ。 違うのはただ一つだけ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加