序章

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 金色の毛並みを棚引かせ、若獅子は居城から眼下に広がる城下町を見下ろしていた。    広大にして繁華、奔放であり堅固なる統一皇の都、ガルグイユ。   今から丁度一五〇〇年前、建国の英雄マルドークの時代に建設された、竜でもなければ飛び越えられぬとされる大城壁が高く聳え都を取り囲む。東の朝は日が昇らず、西の夜は早く訪れるといわれるこの都だが、全ての中心である神皇(しんのう)の頭上、その居城にだけは変わりなく日が差し、夜が来る。  その大城壁の遥か遠くに西日が沈むのが見えた。サヘダン山脈を橙に染め上げ今日もまた、変わりなく一日が過ぎてゆく。  彼がここを治めることになってようやく二年の月日が経とうとしていた。数ヵ月後に催される祭りでは、初めて民衆の前に立つ。  若い、というより幼いという表現の方が正しく当てはまるこの王にとって、気が高ぶってしまうのはどうしようも無い事ではあるが、しかし、今日の彼の場合はそれとはまた別の理由によって心を波立たされていた。 「父上……」  その理由を声に出してぶちまけてしまいたい思いだった。だが彼は神皇。そうすることを許される身ではない.  どうしようもない思いを紛らわせるように今は亡き父をか細い声で呼んだ。
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