序章

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初夏、グライアス神皇国ソドム伯爵領シュメイアにある、双子山シュメルシュムル。  標高がほとんど同じ東のシュメル山と西のシュムル山の間を通るのは南西の国境ニヴァルヘルム山脈を源とする大河イーゼ。元は同じ山であったシュメルシュムルの谷間を大きく隔てることとなったその激流は今日に限って不気味 な程に静まり返っていた。  その渓谷の端を行く、一団の騎馬隊がある。青い軍服と、空色の外套。淡く青光りする銀の兜には、角を突き出す馬が彫られている。  グライアス神皇国軍の擁する随一の騎兵部隊、特殊兵団『白鬣(はくりょう)』の姿であった。  その先頭を行くのは年若い葦毛のクーデルユニコーンに跨った金髪紫眼の青年。額には乳白色の角がある。馬の獣人、一角人(いっかくびと)である。名をイザーク・ユニコスと言った。 「霧が出てきたな。崖から落ちるなよ」  イザークは前方に注意深く眼を凝らしながら、背後を行く副隊長以下の隊員に注意を呼びかけた。
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