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鏡に、彼が写ってる。私じゃなくて、彼。虚ろな目をして私を見ているの。何も言わずに、ただ見てるだけ。
どうして私の姿は見えないの? 私の体は何処?
彼はどうして私を見ているの?
「全部、君の所為だよ」
彼の手が、私に向かって伸びてくる。
私は、動けない。
彼の手が、鏡から出てくる。
私は、動けない。
彼の手が、私を掴む。
私は、引かれる。
彼が、私を引き込んだ。
「此所は何処?」
「鏡の中だよ」
私は聞く。彼は答える。
「貴方は誰?」
「俺は君だよ」
私は聞く。彼は答える。
「貴方は私? 私は女よ? 貴方は男じゃない」
「それは君の想像にしか過ぎないよ。俺は君。君が造り出したのが、俺なんだよ」
私は聞く。彼は、嘲笑うかの様に答える。
「俺は君になる。そして、君は俺になるんだ。世界に君は、二人も居ちゃいけないんだよ」
彼はそう言って、鏡の中から出て行く。私が見たその姿は、私そのもの。
「おやすみ、私」
彼は私になって、私は彼になったのだった。
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