mythology

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その時の事は月詠は覚えていない。知っているのは劉心と宇津萌だけ。水蓮はまだ生まれて間もない頃だった。劉心からはそう聞かされた。覚えていないはずなのに、劉心が近付くことさえも拒む。 ふと気がつけば水蓮は毛布にもぐりこみ寝ていた。月詠はそんな姿を微笑ましくない見ていた。 水蓮が眠ったのを確認して、廊下に出て空を見上げた。空には満月が神々しく照らしている。 月詠とは日本神話で月の神、天照は太陽の神のこと。そんな誉れ高い神の名を持つ神将は忌み嫌われた存在だったが、水蓮の誕生で変わった。 屈託のない笑顔、鈴のような声で呼ぶ声。固くなに閉ざしていた氷のような心を溶かしてくれた水蓮。その笑顔を守りたい。この命に代えてでも…。 そんなことをすればまた劉心に罪を負わせるような事になってしまう。劉心は月詠以上に心に深い傷を負っている。その傷を増やしたくない。月を見上げ、月詠は心にそう誓った。 「……つけた…。見つけた……月詠…!」 庭先に座って月を見上げる月詠を見つめる一対の光。その視線に月詠は気付いていない。しばらく月詠を食い入るように見つめていた影は音もなく姿を消した。
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