~ 一章 ~

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  「危ない!!」 耳を縦に引き裂くような高いブレーキ音で我にかえった僕は、つないだ奈々美の細い腕を自分の身体の方へ、思い切り引き寄せた。 それから三秒と経たずに、物凄いスピードをだした白いワゴン車が、僕たちのすぐ横を通り過ぎて道路脇のお店に突っ込み、ガラスの割れる大きな音がする。 人で溢れていた幸せな新宿の街角は、一瞬のうちに、助けを求める叫び声や悲痛な泣き声を含んだ、阿鼻叫喚の、深いどよめきの空間へと変わった。 僕の顔の割に小さな二つの眼は、大きめの白いワゴン車が薄く柔らかなガラスに突き刺さる瞬間を、あたかもストロボカメラによる連続した写真を繋げたようなスローモーションの映像で、確かに捕らえた。 一つの瞬きから次の瞬きをするまでの間に、人の手を離れて行き場を無くした大きな鉄の塊が、逃げ遅れた二・三人を跳ね飛ばしながら、闇雲に店の方角へと向かっていく。 目的地に着いたワゴン車は即座に、しかし慎重にその仕事を開始した。 ガラスは初めその衝撃を和らげようとして少し曲がったが、それが無駄な事だと気付かされてしまう前に、すぐに自分から砕け散ってしまった。 根性無しのガラスが砕け散る音が耳に、その破片の鋭さをもって、痛々しく響く。  
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