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一刻も早くここから立ち去るために、すぐ近くのマクドナルドに入って腹ごしらえをすることにした。
明らかに営業より外の様子を気にしているアルバイトの女の子を尻目に、照り焼きバーガーのSを二つとポテトのMを一つ、あと奈々美の強い要望によりマックシェイクのストロベリーのSをひとつ注文した。
広い窓から正面に事故現場を見渡せる、いつもより人が少ない店内は、緊張から解き放たれたように和やかな笑いに満ちていた。
薄いガラス一枚を隔てて綺麗に日常と非日常が混在しているのを僕はとても面白く感じている。
店を出るとパトカーに救急車が到着していた。
局地的にバランスを失った街が、どうしようもない、どうしようもない、と叫び声をあげている。
放射上に広がっていく歪みから、次々に悪いことが怒りそうな不吉な予感が漂ってきている。
彼らはそれを修復するために来たのだ。
小さなブティック・ショップに突き刺さって抜けない哀れな鉄クズは、瞬間に人を殺す「キョーキ」としての意味と、臭いものに蓋をするというような「境目」として意味を顕在して、未だそこにあった。
そのためそれが取り除かれるのを想像すると、その洞穴の奥からは生暖かい赤い膿が溢れ出し、虫歯の歯を抜かれるようなキリキリした痛みをもって僕の感覚は侵されるのだ。
これもまたそのままの状態であった辺りに散らばったガラスの破片も、事件から時間が経った今では悲惨さを示す化石というより、どこか一種の侘しさを感じさせるものに変質していた。
まだあちこちで啜り泣きのような声が聞こえる。
頭から血を流した長い髪の女の人が担架に乗せられ、救急車の中へと運ばれていった。
その一部始終を、偶然にも幸運に恵まれた傍観者の気持ちで眺めていたが、女は全くもって動いていなかった。
辺り一面に漂うゴムの焼けるような嫌な臭いに鼻をやられ、逃げ出すように僕は現場を後にする。
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