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「パシャッ」
今度はさっきよりずっと身近にシャッター音が鳴り、僕は驚かされて反射的に目をつぶった。
たかれたフラッシュの光が拡散した後に、薄着の黄色いシャツを一枚だけ着た高校生ぐらいの大人しそうな男の子が現れた。
手には対照的な赤色の携帯電話を僕らのほうに掲げている。
今彼は事故現場を背景に僕らの写真を撮った、と僕は確信した。
僕は自分の大事なプライバシーを彼に侵された気分になり、何故だかすごく腹立たしくなった。
思考より先に口が動いているのを頭が後追いして感じている。
「君、今僕たちの写真を撮ったろう?」
「は?」
「とぼけるなよ。だから今さっき僕らの写真を撮ったろ?って聞いてるんだよ」
「いや、撮ってないんスけど。そこのマクドナルド前の衝突事故の写真を撮ってたんで」
「そのマクドナルドに俺達もついさっきまでいたよ」
「…それがどうかしたんスか」
「お前さ……口の聞き方には気をつけろよ」
「…ハイ」
「だいたいこんな写真なんか撮っていいと思ってんのか?どこの学校だよオマエ」
「あなたたちの写真ですか?だから撮ってないって……」
「バカヤロー!事故の写真の事だよ。撮っていいと思ってんのか?」
ひっ、と突然の大声にびっくりして高校生は体中の筋肉を緊張させる。
意図せず周りの人達の注目を集めてしまった羞恥心で、無意識に舌打ちがでる。
「……まあいいや…とにかく消せよ。俺達が映ってる写真。」
「だから…」
「撮ってなくても映ってんだよ!バカ!ちょっと貸せよ、ほら!」
「…やめてください!!あっ」
抵抗する高校生の手からから無理矢理に赤い携帯電話をもぎ取る。
写真を削除しようとするが、携帯の機種が違うのと頭に血が上っているのとで上手く操作できない。
指先からジュワッと見たこともない変な汗が流れ出てきて、指にワルツを踊らせた。
見上げると高校生が全てを諦めたような顔でこちらを見て、静かに呟いている。
それを見て反って狼狽した。
「それ犯罪ですよ。早く返してください。早く……」
「うるさい」
携帯電話を思い切りコンクリートの地面にたたき付けた。
鈍い音がして、軽い赤色のプラスチックの破片が四方に飛び散る。
あぁ……という鳴咽の声が暗闇に溶け込んだ。
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