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キリストの誕生日は日本では平日だった。
しかし昼間は嘘のように静かだった街も夕暮れ時になると、それぞれ学校やら仕事やらを終わらせてきた若者たちによって、少しずつ賑やかになる。
昼間の閑散はこのための準備をしていたのかも知れない。
雪は降らないけれど、段々と点されていくクリスマス用の、この一日のために一ヶ月ほど前から準備されていた、色取り取りのイルミネーションによって彩られて、初めて見せるこの街の新たな一面に、安物のコートにオレンジ色のマフラーを被った今城雪は少しドキドキしていた。
彼もこの大きな群集の動きを作り出す人々と同じく彼の、彼個人の非常にプライベートな理由によって、この日を心待ちにしていた一人だった。
「ねぇねぇユキっち見てー!これかーわーいいー」
派手な金髪が目立ち、ショートパンツの寒さ知らずの恰好の奈々美が、冷たいショーケースに額を押し付けて、手の平にのる位の硝子細工のテディベアを指差している。
温かい吐息でガラス窓が優しく曇る。
首元のモコモコとした毛皮のポンポンを揺らして振り返り、わざとらしい程の上目使いで今城を見つめた。
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