プロローグ

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 少し二人のことについて話すことにしよう。 今城は流通関係の仕事に着いている、所謂普通のサラリーマンだ。 同年代の若者たちと比べて、珍しく定職を持ち、精神面でも経済面でも落ち着いている彼だが、決して昔からそうというわけではなかった。 特に中学・高校時代の彼は荒れに荒れていた。 持ち前の繊細な心ゆえに、常にその美しい理想と上手くいかない現実とのギャップに苦しみ、たびたび家庭内の器具を破壊し、時には母親に怪我をさせることもあった。 その状況を変えたのは奈々美の存在と、ひとえに時間の経過だった。 周りの友人たちが一人、また一人と自分の夢を諦めて大人になっていく姿を見て、今城もまたプロのカメラマンになるという当初の夢を捨てて、初めてネクタイを首に巻き今の仕事に志願した。 かつての放蕩息子ぶりから、彼の両親は初めて彼から報告を受けたときには、彼がやくざな仕事を始めるのではないかと心配した。 それから一年と経たず、一人息子を社会に送り出し、これから二人世話いらずの新しい人生を始めるはずだった両親は、安心して気が抜けてしまったかのように相次いで亡くなる。 これから社会生活を始めようとする息子を残しての、あまりに早すぎる死だった。  
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