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話はまたクリスマスに戻る。
未だ奈々美は意地でも譲らないといった風に、ショーケースの前から動こうとせずに、訴えかけるような目で今城を見ている。
「そんなのが欲しいの?」
刺のある口調で今城が呆れたように呟くと、
「うん」と奈々美は全く気兼ねをしないというように返事をした。
「……いくら?」
「12000円」
一人前に会社に勤めている今城には高すぎるということはないけれども、年末の出費として考えれば決して安くはない値段だ。
「ねー買ってよー。約束でしょー?」
どうしようかと考えてる間に、だだをこねる奈々美の機嫌は目に見えてどんどん悪くなっていく。
「わかった、わかった。……買うよ。買う。約束したからね」
今日だけは奈々美の思い通りにさせてあげようと思った今城は、それに彼には彼の「約束」の事もあった―――、財布から三枚のお札を彼女に渡した。
奈々美はお金を受け取ると一人足早にお店の中に入っていき、店員にショーケースの中のプレゼントを指差す。
ガラスごしにプレゼントが赤いクリスマス用の包装紙に包まれていくのが見える。
それを見て、プレゼントというのは、ある意味、思い出のようだな、と今城は思った。
包装を剥がされたプレゼントは、その時点でプレゼントとしての役割を終え、いつしか連続性のない「事実」としての事物としてのみ現れる。
そしてその感情を取り除かれた事物は、もはや意味のない抜け殻であり、しまいには押し入れの奥に押し込められ忘れ去られる存在となる。
それはつまり死んだ記憶と同様ではないか。
そう考えると、今城はプレゼントを贈るという習慣自体に、一種の嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
かじかむ指を白い息で暖めていると、突然強く冷たい風が横から吹き付けて、今城は身体を縮こまらせる。
そしてマフラーを首を守るようにずっと強く巻き直す。
確かなものが欲しい、と今城は強く願った。
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