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今日の今城は心なしか急いでいた。
時折自分の他は誰もいないかのように先行し、歩幅の狭い奈々美は今城の二倍の動きをしてなんとかついていこうとしていた。
「ねぇー、まだー?私もう疲れたよー」
遂に奈々美は地べたにしゃがみ込んでしまった。
「もうすぐだよ」と今城は腕時計の盤面を見ながらそれだけ答える。
奈々美のところまで戻って来て、あくまで抵抗する奈々美の手を優しく引っ張りあげ、今度は冷たくなった手で彼女の手を手袋の上から握ったまま、先程よりゆっくりのペースで手を引いてまた歩き始める。
今城は子供の頃いつもひっぱり回されていた自分が奈々美を今度はひっぱって歩いていることをおかしく思い、声を出して笑った。
「そこだよ」
今城がそう言って道路を挟んで向こう岸の、ネオンサインが集まって光の群をなしている所を指差すと、どれどれ、と奈々美の視線が丸い円周を描いてそれを追う。
日は完全に沈んでしまっていて、暗闇の横に座った街は、もう人工のネオンサイン無しには辺りの様子はほとんど何も見えないくらいだった。
先走った奈々美が待ち切れないという風に、おおはしゃぎで今城の指差すへと駆け出していこうとした瞬間、
「ちょっと待って!!」
と今城は思わず声を張り上げていた。
奈々美は一体何?とでも言いたそうな目を今城に向ける。
今城はとても恥ずかしい気持ちに駆られたが、きっと大丈夫だ、という風に持ち直した。
暗闇がプライバシーを守ってくれる。
確かに予定の場所にたどり着いた事を確認すると、今城は静かに一つ深呼吸をして、暗闇を手探りするような気分で前方にいる奈々美の方に近づくと、胸と胸を重ねるような形で、思い切り抱きしめた。
首筋を舐めるように甘噛みし、それから彼女の腰にゆっくりと手を回す。
「だめ……」奈々美は始め抵抗していたが、今ではそれを敢えてやめて、今城のなされるがままになっている。
その後ろで、信号のライトがゆっくりと青から赤に変わった。
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