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入学式当日だというのに、雨が降りしきっている。天気を気にする律ではないが、これから始まる三年間を思うと、思わず溜め息を漏らす。
「…涙雨。」
向かいに住んでいる麻里に気付かれないようにと、一時間早く、家を出る律。
「ゴメンネ。麻里…」
届く事のないつぶやきを漏らすと、深く溜め息をつく。
律がこれから通うことになった県立◇☆大学附属◇☆高等学校は、徒歩30分圏内にある。自転車で通うことも可能なのだが、律は天候も関係なく、徒歩で通うことにしたのだった。
「…。」
降りしきる雨の中、小さな段ボールが置いてある。中には小さな子猫が震えながら、弱々しく鳴いている。
「……。」
雨の日だとわかっていて捨てたのだろうか、遠目では判らなかったが、ビニール傘がさしてある。
「ひどい飼い主だな…。傘は最後の情…か。」
ヒョイと猫を抱き上げると、置いてあるビニール傘をたたみ、近くの電柱へ立て掛ける。
「あい…。女の子かな?」
傘の柄に書かれた名前らしき文字を読む律。
「下手くそな字…。ひどいね」
すっかり冷え切っている猫を抱えたまま、来た道を引き返す。
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