序 クリス

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「ここまで来たのに、ここまで来たのにさぁっ! 諦めれるわけないだろ!」  ミルフが防壁の戒律を何重にも展開させ、上からの吹雪のような強烈な風から、動けない自分とミルフ自身を守らせる。それでも、一分持つかどうかでしかない。既に十人の仲間たちは上から放たれる戒律を防ぎきれず、下へと落ちていった。  自分とミルフのいる、この移動石も限界に近い。いつ落ちるか分からない、そんな状況だ。 「ミ、ミルフ……」  背中だけが見えるミルフに、精一杯の力を出して声を掛ける。ミルフは自分を一瞥した後、再び風吹く方向を見上げた。さらに、カノンを繰り出そうとしているのか、右腕から文字の羅列が空間へと流れていっている。 「クリス……私たちは、今までずっと、こうだっただろう?」 「こ、う?」  自分の身体はもう、限界だった。ミルフを守るために受けた傷は大きい。治癒の戒律は既にかけているものの、それでも治癒が遅くなるような付加戒律がかけてあったのか、傷は一向に治る気配を見せない。  それでも、落ちそうになった自分を、必死にミルフが助けてくれた。今はミルフの後ろで倒れていることしかできない。それが、あまりに情けない。 「ふっ!」  ミルフの右腕から『リーナス』家のカノンが放たれる。右腕から放たれた、驚くほど巨大な球体は何もかもを呑み込むようなねとねととした粘液で包まれ、風上へと、風に逆らって飛んでいく。この程度の戒律やカノンは幾度も仲間たちと試したが、無駄だった。それでも、この特殊なものならば、と思い、放った のだ。  しかし、その球体が風上の穴へと入込もうとした瞬間、突如現れた真っ白の糸のようなものが球体に絡み、球体は一瞬で消え去った。 「ミルフ……、そのままカノンを放ち続けると、お前、壊れる……」 「……」  何を放とうとも、何を撃とうとも、あの上の穴から先へと進むことは不可能。ここまで来て、詰まった。どうすることもできない。今まで、何度も挫けそうになったことはあった。何度も負けた。でも、それでも、ここまで来れた。  だが、目の前にある壁は、あまりに大きい。  諦めるわけではない。  でも、今はまだ、時期尚早すぎた。最上はまだまだ、遠すぎる。  でも……  まだ、この場を諦めたくない気持ちは、ある。
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