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「くっ!」
展開していた防壁が全て崩壊。即座にミルフが同じ防壁を一瞬で展開させる。あの風を直接当たったら、仲間たちと同じように、戒律を遣う間もなく、下へと吸い込まれる。一瞬で、決着してしまう。
その展開が完了した瞬間、とんでもない気配を感じる。
上の穴の奥に、急激に戒が吸収されていっている。すごい勢いで、しかもありえないくらいの量の戒を――
「ミルフ!」
この現象の意味することは、上からの攻撃が、止めに入るということ。終わらせようとしているということ。俺たちを落とそうと、もしくは消し去ろうと。
「……分かってるって」
ミルフは静かに言って、口の端をわずかに釣り上げた。
「あ?」
「私たちは、ずっと絶望の中にいた。でも、クリス、アンタが私たちに希望をくれた。ありがとう。私たち十一人、全員がアンタに感謝してる。クリス、それと個人的に私のことを好きになってくれたことも、愛してくれたことも、私はとても嬉しかった。
私は男みたいで、ガサツな性格してるけど、それをクリスは全て認めてくれた。本当に、感謝しきれない。……ありがとう」
自分は、呆気にとられていたと思う。ミルフが口にしたのは、まるで別れの言葉だったからだ。自分は言葉を口から出す前に、ほとんど動かない右手をミルフに差し出していた。ずっと今まで一緒だった、ミルフに。
「アンタの希望は私が掴ませる」
ミルフが力強く言った刹那、上の穴から光の滝のような戒律が降り注ぐ! 穴に集った戒の結晶、今まで見たこともない、強力すぎる威力が見て取って分かる。これは、落とすための戒律ではないことも、すぐに理解できた。
ただ、ミルフはその戒律を見ても、動揺することなく、今まで全く動かしていなかった左手をぐるん、と回した。その途端、ミルフの得意とする属性を持たない戒律が発動。自分の身体が突如、浮かぶような感触に襲われる。
「行けっ!」
ミルフが叫ぶ。その声を聞いて、自分は全てを理解した。ミルフの繰り出した戒律は物質を情報に変換、それを転移させる戒律、さらに転移を強化する戒律も何百と付加している。今まで、左手でこの戒律をためこんでいたと思うと、ミルフは最初からこうなることを予測していたかのように思えた。
でも、そんなことを──
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