【発端】

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 とあるところに、大きなおにぎりを持ったカニの親子がいた。  カニごときが何故おにぎりを持っているのか? と言う疑問があるだろうが、そう言う設定なのでしょうがない。  ……兎も角、そのカニの親子が、木陰でおにぎりをいざ食べようとすると、道の向こうより猿がやって来た。  猿は目を吊り上げ、肩を怒らせ、いかにも悪い奴を装って歩いてくる。そしてカニの親子を見つけると、近づいていってわざとらしく大声を上げた。 「おおー! うまそうな握り飯発見! すっげぇうまそう! 米の光り方が、つやが違うね。海苔も、いい海苔使ってるわ。磯の香がタマラネェ。うん、マジうまそう。てか、ゼッテェうめえわ」  行き成り目の前で大声を上げられて、二匹は面喰らった。要するにその握り飯をよこせと言う事なのだろうが、なんと言われようとこのおにぎりは自分達にとって三日ぶりの食事なので、かけらも手渡したくはない。  そこで、 「おいしそうですよねー」  と、親ガニはすっとぼけて見せた。  それに対して猿は、表情を曇らせ大きな舌打ちをし、 「うまそうだよねー」  と言葉を返す。  その後暫く、二匹とも馬鹿なんじゃないかと子ガニが思うぐらい、「おいしそうですよねー」 「うまそうだよねー」  のやりとりを繰り返す。繰り返しては沈黙し、片方はイライラ、片方はハラハラしている。  そこでふと、馬鹿なやり取りを数十回は繰り返した後、 「あれ、あれれれ!? こんな所に柿の木があるぞ!」  と猿が、わざとらしく声を張り上げて、カニの親子の真後ろにある木を指差して言う。つられて見てみると、その木には、美味そうに真っ赤に熟れた柿がたくさん生っている。
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