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「あの柿なんて……ホラ、あの真っ赤な奴。すっげぇ熟れてうまっそうじゃね? その握り飯とどっちがうまいかな。多分、柿の方がうめえと思うなぁ。だって、天然モンだぜ。天然モンに敵うわけねぇ。ぜってえ柿の方がうめえ。柿食った方がぜってえ幸せになれるわ」
「……」
カニの親子は黙っている。と言うか、余りのうっとうしさに何をどう言っていいか分からない。
要するに、この、目の前にいる無駄に声を張り上げている”やから”は、俺が柿を取ってやるから、そのおにぎりと交換しろ。と言いたいのだろう。
そこまでしておにぎりが食いたいのか? 柿でいいから食って満足してろよ。と思わないでもないが、猿がおにぎりに執着しているのだから仕方がない。それに、おにぎりを取られるのではなく、柿と交換なのだから悪くない。確かに、”あの真っ赤な奴”は美味そうだった。
なのでしかたなく、と言った態度で、
「あの柿を取ってきてくれれば、おにぎりと交換しますよ」
と棒読み口調で親ガニは言ってやった。すると、
「まーじ、ありがと」
と言って素早くカニからおにぎりをひったくり、味もヘッタクレも無いと言ったふうに一口で食べ終えると、するすると木に登っていく。そして今度は、カニの親子を一切無視して片っ端から柿を食い始めた。
「あ゛……!!!」
カニの親子は驚き、呆然とその様子を見ている。本来なら柿が落ちてくる筈なのに、実際落ちてくるのは、
「柿うめー!」
もしくは、
「柿あめぇ!!」
と言う言葉だけ。こんな馬鹿な話は無い。しかも種が落ちてこないと言うことは、全て食っているらしい。それはそれで馬鹿っぽいが……。
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