【発端】

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 やがて、頭にきた親ガニは、柿をよこせと猿を怒鳴りつけた。  しかし猿にしてみれば、木の下でわめく事しか出来ない甲殻類よりも、今は柿がうまくてしかたが無い。次々に柿をむしっては口に入れている。 「アァ、うめぇ――」  と、猿は行動を止める。どうやらまっっったく熟れていない柿に当たってしまったようで、見る見る味同様の渋い顔に変わっていく。その様子を見上げているカニの親子は、声を立てずに笑う。 「アホだコイツ」  と思い、自分を馬鹿にしていると解釈した猿は頭にきて、 「うるせー!」  と叫んで、持っていた熟れていない柿を力任せに投げつけた。  その柿は見事に親ガニの腹に命中。親ガニは泡を吹いて倒れてしまう。子ガニは取り乱して親ガニの体を揺さぶり、 「しっかりしてよ!」  と叫ぶけれど、気を失っているためにその言葉は届かない。  そんな光景を全く気にも留めず、猿は残っている柿に手を付けていく。そして学習能力が無いのか、そもそも一目見れば熟れていないと分かる筈なのに、何度も青い柿を口に運んでは顔を歪めた。しかも非情な事に、 「ムカつくなぁ」  と言って下へ投げつける。勿論、これは全て親ガニに命中し、その都度子ガニは悲鳴を上げていた。  猿は柿を全て食い終わると、するすると木から降り、 「食った食った。柿ってうめぇなー!」  と爽やかに言って、カニの親子には目もくれず、鼻歌を歌いながら何処かへ去っていった。
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