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まず俺たちがしたことは、チェーンロックやU字ロックの付いていない獲物探し。俺たちの道具と技術じゃこれらを外すには無理があったからね。で見つかったのが白い原チャリ。メーカー車種は憶えてないが、イメージとしては農家のおばちゃんが麦わらかぶって乗っちゃうようなアレ。古い車種で、スタンドは簡単に上がった。ただ、人気(ひとけ)の無い所に移動するにはハンドルロックを壊す必要があった。それで一度スタンドを立て直したところで最終間近の電車がホームに入ってきた。
「一旦離れよう。」
参謀のリスが言ったので少し離れた場所で、たむろしている不良少年を装った。
都会人は無関心なんてよく言うけど、このご時世では田舎も例外じゃないようだ。明らかに未成年と判る四人組がタバコ吸いながらたむろして居ても、注意しようという大人は我が街にも居なかったからね。
だいぶ人が引けたが、オレたちは行動に移さなかった。ハンドルロックはそう簡単に壊れないし、なにより明らかに怪しい姿をただ一人にも見せたくなかったからね。
ワクワクが時間を埋めてくれる。こんな時、友達との会話は修学旅行の夜のソレと似ているかもしれない。30分くらいはあっという間に過ぎたと思う。無人+4になったロータリーでオレたちは動きだした。だいたい、この原チャリが置いてある場所は駐輪禁止になっている。そんな所に停めている持ち主も悪い。10代の理論的制裁が始まった。
原チャリは、改めて見ると本当にボロかった。それでも原動機付きってとこにはかなりひかれた。オレとボスで車体を押さえつけ、腕相撲無敗の帝王リスが一気にロックをへし折る。
『ガツッ!』
衝撃でハンドルが少し左に曲がった。少し不安はあったが興奮がかき消してくれた。
ここまでは、十中八九成功する。
「転がして、空き地の方に運ぶぞ。」
さすがに、駅前で作業を始めるわけには行かなかった。持ち主と鉢合わせは避けたいし、何より地元暴走青年団の定期会合場所に指定されている場所で、いつまでもモタついて居るわけにはいかないからね。
その駅は、目の前が住宅地になっている。西側は売れ残りの分譲地になっていて、深夜ともなれば人通りはなくなる。
普段チャリンコで通るときは気にならなかった距離も原付を転がしながら歩くと途方も無い距離に感じた。でも、誰一人として「やめよう。」と言うものは…。いなかった。
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