待ち合い室で

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平日の午前中にも関わらず せわしなく開閉する 大きな病院の自動ドアを ぼんやりと眺めていた   自動ドアの近くで 挨拶をしている 腕章をつけた男性の 働きぶりを見たり   若い看護婦さんに 目を奪われてみたり   先ほど余命宣告を受けた 人間の行動か、と 自分でツッコミたくなった   かつて、私と同じように 余命宣告を受けた昔の彼女も こんな風に思っただろうか             私は… 今までちゃんと 生きてこれただろうか…   不器用な生き方だったとは思う       色々な記憶が 駆け巡る     人生を振り返ってみた               …うん、おそらく悪くはない   どうせ振り返ってみたって こーゆう答えに辿り着くのは 何となく分かっていた   そうこうしている内に 家族連れが入ってきた 子供が両親に挟まれた状態で   それを見て私は 得も言われぬ衝動に刈られた           …気付いたら 私は病院から 飛び出していた   私は走った! どこへ行くでもなく   …ああ、薬をもらい忘れた が、それもすぐに 忘れてしまった   それよりも、私は走った   過ぎ行く景色が 見覚えのあるものに変わっていた             …そうだ、ここは私の家の近くだ   息を整えながら 家路につく   玄関のドアを開ける中央の居間に妻がいた 何も知らずに こちらに微笑む。   その何気ない笑顔を見て 私の人生の集大成は 彼女にあると気付いた   無言の抱擁に妻は 少々驚いているようだ       そうだ 私が居なくなっても 私は彼女の中で生き続けよう       先程よりも 自信を持ってこう言える             うん、悪くない―――
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