満月

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「ったく…あのクソジジィ…」 職場からの帰り道。車内でひとりになるとそこは愚痴のスペースになる。 ステレオの音量を上げて、真夜中の道を滑走。そうでもしないと気がおさまらないのだ。 毎日毎日、上司から蔑まれ、特にやりたい仕事でもない会社に嫌でも通勤しないといけない。 今日は更に彼女から「好きな人が出来た」と、別れを告げられる。 ロクな日じゃねぇや。 前方を走る軽トラがあまりにトロくて苛立ちは増すばかりだ。 「深夜にトロトロ走ってんじゃねぇよ!ったく…むかつく」 軽トラをかわす。バックミラーに遠ざかる姿をみると、その背後から月が見えた。 満月だ。 普段なら何とも思わないクレーターでさえ、皮肉げにニヤついた顔に見えてくる。 「月にまで馬鹿にされんのかよ。」 げんなりしながら、いつまでもついてくる満月に徐々に苛立ちが増してくる。 「うぜぇな!!ついてくんなよ!!」 アクセルを踏み切り、加速する。 まわりは暗闇に包まれ、月も見えなくなった。 すべてから逃げ切った。 俺のそこからの記憶はない。 ※運転は安全に。
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