君の存在

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アカネがホットメールのメアドを教えてくれたので、僕は早速登録をした。 彼女はオンラインになっていた。   メッセはチャットと違ってかなりリアルタイムに近い感覚で会話ができるから好きだ。   アカネは楽しそうに今日の出来事を話してくれた。 しかし、相変わらず敬語なのでタメ語に直すように言った。 敬語だとこっちまで緊張してしまう。 話してみる感じだとやはり今まで彼氏がいなかったのが信じられない。 写真も決して悪い顔ではないし(むしろ僕は好きなほうだ)、天然っぽくて可愛い。けれど、モテた試しがないらしい。周りの男の見る目がないのか、それとも彼女によほどダメなところがあるのか…   しばらく話してから僕は彼女に聞いてみた。   「…実はトラウマっていうか、そんな感じなのがあるの」   アカネは小さい頃に知らない男性に連れ回されたことがあるらしい。 何をされたかは覚えてないらしいが… 多分ショックで無意識に思い出さないようにしてるのだろう。一応、大学で心理学を学んでいたので多少はわかる。 …中退したけど。   しかし次の瞬間、僕は言葉をなくした。 彼女は一度メル友と会ったことがあるというのだ。 そのときは何もなく終わったらしいが、過去にそんな辛いことがあったのに何故傷をえぐるような真似をするんだ?   気が付いたら僕は彼女を怒っていた。 自分をもっと大事にしろ!と。 きっとトラウマは過去と向き合わない限り克服できないかもしれない。けれど、それを上塗りしてしまってはどうしようもない。 もしかしたら嫌われるかもしれないが、アカネのために言わなければならないと思った。   彼女はしばらく「うん」と言って僕の話を聞いて、それから「ありがとう」と言った。 なんだか少し照れ臭くなった。   なんだろう… 彼女には幸せになって欲しい。 そう思った。 娘を見守る親というか…妹を思いやる兄のような気持ちになった。   「お兄ちゃんとかいたらこんな風なのかなぁ?」   アカネも同じことを思っていたようだ。 僕は上に兄が一人いる。 妹が欲しいと思ったことはよくある。   「じゃあ、今日からお兄ちゃんになってあげるよ」   気が付いたらそんなことを言っていた。 ネット上ならなんでもできる気がしたんだ。 アカネは嬉しそうに僕をお兄ちゃんと呼んでくれた。     この日、僕らはネット上ではあるが兄妹になった。
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