激-壱-

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寝返りの声に体を反転させる。 「……」 つい笑みを零すと、立ち上がり姫乃の傍に座った。しばらくぼんやり見つめながら、髪を触ったり頬に触れたりしていた。まるで、自分の触れる手に刻み込むように…忘れないように…。 時折、触れる手を握れば姫乃が不思議と握り返してくれる。その度に顔を赤くしたが、温もりを感じる事が何より嬉しかった。 「…………」 愛おしむように姫乃の唇を親指でなぞる。そっと姫乃の手と自分の手を絡め、顔を近づけた。 トクン…トクン… 少し角度を斜めにし、唇を近づけていった。 トクン‥トクン… 早る心の鐘。顔が熱くなるのを感じる。 『…お……きた…さん…』 トクン…! 触れるか触れないかの間で沖田の動きは止まった。そのままゆっくり体を姫乃へと預けた。 「…できない…ですよね…。」 耳元で呟く。声だけでなく体も震えていた。 「…貴女と過ごした時間が偽りになってしまいますもんね…」 依然、眠り続ける姫乃の頬に雫がポタポタと落ちる。 「……姫乃…」 こんな形で、初めて名前を呼び捨てで呼ぶ事になろうとは…沖田は言いようのできない感情にただ嘆くしかできなかった。 …- 翌朝、まだ日の出もなく暗い中、荷物を整えた沖田は近藤の部屋へ向かった。足取りは軽いのか重いのか…よくわからなかったが、普段通りに接しようと心掛けた。 「近藤さん」 「総司か…もうじき籠が着くそうだ」 中に入ると、肩を抑えながら少しきつそうに笑う近藤の姿があった。 「お怪我の具合は…」 「ん。歳の薬も飲んだし、何より姫乃ちゃんの看護があったからな…前よりはだいぶいい」 よかった…っと小さく呟き笑みを零す。 しかし、近藤は沖田の頭を撫でた。 「姫乃ちゃんに会わないのか…?」 「……会ったらきっと…離れたくないって思ってしまいますから…」 苦笑いする沖田。肩をすくめると近藤の手に自分の手を添えた。 「それに…あの子も同じ事言いますよ」 「……そ」 「失礼します局長!沖田先生はこちらにいらっしゃいますか??」 部屋の外から元気のいい声に二人は驚いた顔を見せるが、沖田は立ち上がり襖の前に来ると近藤に振り返った。 「それに…あの子にはどうしても笑って生きてほしいんです」 眩しいくらいの笑顔を近藤に向けると部屋を出た。
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