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近藤は一度深呼吸をすると、ゆっくり立ち上がった。
「…お前に対しても皆、思ってる事だ…総司…」
壁に掛けてある「誠」の旗をぼんやりと眺め呟いた。
「……で??貴方が迎えに来るなんて一言も聞いてませんよ??日比谷君」
部屋を出るなり姿を見ればため息をつき、すたすたと歩きだす。慌てて日比谷はついていった。
「い、いいじゃないですか!別に…!」
「薬を盛る相手を間違えましたね…。貴方には頼み事をしたはずですよ?私の所に来る前にあの子の前に行くべきです」
力強い口調でついてくる日比谷を叱った。しかし、日比谷は退かなかった。
「っ…お、俺はまだ大事な事聞いてないです!」
「…大事な事…??」
沖田は眉を吊り上げた。日比谷は苛々している沖田の様子にびくびくなった。
「…姫乃ちゃんを戦場なんかに行かせなくても…他の道があったんじゃないんですか…??」
沖田は日比谷を凝視した。
「だってあんなに姫乃ちゃんを連れて行きたがってたのに…なんで今更…」
「…時間がないんです……それだけですよ……」
優しく微笑む沖田を見ると、日比谷はキュッと拳を握った。
「ねぇ、日比谷君。人はどんな経験をすれば本当の強さを手に入れられるか…知ってますか…」
ゆっくりと首を横に振る。
「…人の死です」
日比谷は目を見開いて沖田を見ると、全てを悟るかのような瞳で見返された。
「戦場での痛みは…悲しい事に人を強くさせます。日比谷君も知っているはずです…」
「…っ…でも姫乃ちゃんにはつらすぎますよ…!」
「そうしなければ、私がいなくなった時に折れる事はないでしょう…?」
沖田は自分がこの世からいなくなる前に、姫乃に試練を与えようとした。自分が逝ってしまった時、強く道を歩けるように…自分が示さずとも、真っすぐ笑って歩けるように……。
「…聞きたかったのはこの事ではないんですか??」
「……俺は…沖田先生を好きな姫乃ちゃんが好きです。でも、悲しい顔の姫乃ちゃんを見るのは辛いです…」
その言葉を聞くと、沖田はにんまりと笑った。
「なら、私から奪ってみなさい。あの子に悲しい顔をさせている私から…。ま、できるものなら」
クスクスと笑うと自分の部屋へと歩き出した。しかし、一歩進み出たと同時に踵を返し日比谷に振り返った。
「土方さんにすみませんって言っておいて下さい…」
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