2776人が本棚に入れています
本棚に追加
「…沖」
「さようなら」
そういうと笑って再び歩を進めていった。
その背中を日比谷はただ、見つめる事しかできなかった。
…-
「……よし…」
荷物は積み終わっていたのか部屋はからっぽだった。沖田は立ち上がり、そのからっぽの空間を見つめた。ふっと微笑んで出て行く。
「…来たか…」
「土方さん…。本当にお見送りに来たんですか…」
肩の荷が降りたかのように思わず笑ってしまった。
外はまだ暗がりだったが、籠が二つと馬、それから大阪の使者がいた。
「…副長の仕事だ。局長を送りださねぇでどうすんだ…」
「そうそう!」
「俺らも仕事だ!!」
「…うむ…」
土方の後ろからひょこひょこと出てくる。永倉、原田、斎藤、鉄之助…そして隊士達。
「…仕事ってのは建前だけどな…。見送りすんなってのは水臭せぇだろ、総司」
「格好悪いなんて誰も思ってませんから!」
皆で沖田との別れをした。
「全員整列!!」
土方の合図で隊士はそれぞれ塀伝いに列んぶ。
「…行け…。どうせ馬なんだろ??カッコつけやがって…」
「土方さんだって同じ事するでしよう」
クスクスと笑うと、不意に振り返り門と一緒に今の頓所を見た。
(…これが見納め…かな…)
変に込み上げる鳴咽と笑いを堪え、籠ではなく馬に乗った。
後ろからついてきていたのか、土方が籠の中の近藤に話しかけていた。
「…後は頼むぞ、歳…」
「あぁ。生憎、喧嘩じゃ負ける自信はねぇんだよ」
二人で笑って別れをし、土方は寂しげに戻っていった。
大勢いる隊士達の見送る道を沖田は真っすぐ見つめる。時折、名前を呼ばれ礼をしたがそれ以上は何も言わなかった。
すると、暗がりの中小さな風が駆けた。
『…っ沖田さんっ…!!』
姫乃の叫ぶ声が沖田の背中を刺した。姫乃はまだ熱があるのか、ふらふらしながら追いかける。
『沖田さんっ……行かないで下さい…!沖田さん!!』
涙を堪え叫ぶ声だときづく。沖田は俯いた。
「…姫乃ちゃん…!」
『行かないで…!!総司さん…!!』
姫乃はすぐに日比谷に止められた。隊士達は皆、涙を堪え姫乃を見た。
俯いたままの沖田は前髪を掴むように片手で顔を覆った。
「……っ……」
『…行かないで……』
段々小さくなる姫乃の声、溢れだす涙。
最初のコメントを投稿しよう!