激-壱-

38/41
前へ
/335ページ
次へ
「…沖」 「さようなら」 そういうと笑って再び歩を進めていった。 その背中を日比谷はただ、見つめる事しかできなかった。 …- 「……よし…」 荷物は積み終わっていたのか部屋はからっぽだった。沖田は立ち上がり、そのからっぽの空間を見つめた。ふっと微笑んで出て行く。 「…来たか…」 「土方さん…。本当にお見送りに来たんですか…」 肩の荷が降りたかのように思わず笑ってしまった。 外はまだ暗がりだったが、籠が二つと馬、それから大阪の使者がいた。 「…副長の仕事だ。局長を送りださねぇでどうすんだ…」 「そうそう!」 「俺らも仕事だ!!」 「…うむ…」 土方の後ろからひょこひょこと出てくる。永倉、原田、斎藤、鉄之助…そして隊士達。 「…仕事ってのは建前だけどな…。見送りすんなってのは水臭せぇだろ、総司」 「格好悪いなんて誰も思ってませんから!」 皆で沖田との別れをした。 「全員整列!!」 土方の合図で隊士はそれぞれ塀伝いに列んぶ。 「…行け…。どうせ馬なんだろ??カッコつけやがって…」 「土方さんだって同じ事するでしよう」 クスクスと笑うと、不意に振り返り門と一緒に今の頓所を見た。 (…これが見納め…かな…) 変に込み上げる鳴咽と笑いを堪え、籠ではなく馬に乗った。 後ろからついてきていたのか、土方が籠の中の近藤に話しかけていた。 「…後は頼むぞ、歳…」 「あぁ。生憎、喧嘩じゃ負ける自信はねぇんだよ」 二人で笑って別れをし、土方は寂しげに戻っていった。 大勢いる隊士達の見送る道を沖田は真っすぐ見つめる。時折、名前を呼ばれ礼をしたがそれ以上は何も言わなかった。 すると、暗がりの中小さな風が駆けた。 『…っ沖田さんっ…!!』 姫乃の叫ぶ声が沖田の背中を刺した。姫乃はまだ熱があるのか、ふらふらしながら追いかける。 『沖田さんっ……行かないで下さい…!沖田さん!!』 涙を堪え叫ぶ声だときづく。沖田は俯いた。 「…姫乃ちゃん…!」 『行かないで…!!総司さん…!!』 姫乃はすぐに日比谷に止められた。隊士達は皆、涙を堪え姫乃を見た。 俯いたままの沖田は前髪を掴むように片手で顔を覆った。 「……っ……」 『…行かないで……』 段々小さくなる姫乃の声、溢れだす涙。image=208508811.jpg
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2776人が本棚に入れています
本棚に追加