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沖田も同様、歯を食いしばり涙を堪えていたがついには流れだす。そして、姫乃に一度も応える事なく沖田は去っていった。
誰一人、二人を引き止め共に行かそうとしなかった…いや、出来なかったのだ…。
『…行かないで…』
小さく叫ぶ声は大きな空に微かに響いた…。
その日の昼に土方は山崎の部屋を訪ねた。
部屋は大きな掛け布団で二つに分けられていた。土方は、仕切られた奥を見るように小声で呟いた。
「姫乃は…」
「…日比谷が付き添って眠ってます。…風邪というのもありますが…よほど辛かったんでしょう…」
山崎の言葉に眉を寄せた。自分が無理にでも…と。
「…呼んでも振り返らなかったのは初めてだからな…。」
「そう…ですね…」
山崎も眉を寄せると俯き、視線は仕切りに向いた。すると痺れを切らすように土方が仕切り近づいた。深呼吸をすると、仕切りを開ける。日比谷は心配そうな表情で土方を見た。調度、同じように姫乃も目が覚めた。
「…日比谷。席を外してくれ」
「あ…はい…!」
心配しながらも慌ててその場を立ち、仕切りを閉めた。
土方は姫乃を見下ろした。しばらく泣いていたのか、目は赤くなり少し腫れている。
「…姫乃…」
名前を呼ばれればぼんやりと土方を見上げる。しかし、すぐに俯いた。
絶望
そんな目をしていた姫乃に土方は言葉が詰まった。
「…総司はただでお前を残した訳じゃない」
『……』
「あいつはな…お前と過ごした日々を本当に大切に感じていた。お前にたくさんの事を学んだと言っていたんだ…」
姫乃の目にじわりと涙が浮かんだ。
「……お前は俺達が守る。…姫乃、お前には生きてほしいんだとよ。それが総司が俺に託した約束と、お前に託した願いだ…」
姫乃は反応するように手を握りしめた。
土方は立ち上がり仕切りを開け部屋を後にした。残された山崎と日比谷は、土方の言葉に呆然としたが土方なりの元気付けなのだろうと思った。
しかし、廊下を歩く土方は沖田の言葉を思い出していた。
沖田が近藤に頼んだ日の事。沖田の理由だった…。
………-
「何か理由があるなら言ってくれ。でなければわしも検討のしようがない」
「…私は…佐倉姫乃は新撰組にとって必要不可欠な存在だと思ってます」
その言葉に土方が反応する。
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