激-弐-

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松本良順のもとへ近藤と共に来た沖田は、嫌に落ち着いた様子だった。 医者の類いを好まない彼は松本に仕える見習い達の診察等に、眉一つ動かさずじっとしていた。しかし、近藤のみならず松本をも困らせた事が一つ…。 「お、沖田さん…お食事が…」 「食欲がないです…」 見習いの者が食事を持ってきては笑顔で追い返す始末。 食べたかと思えばみそ汁を吸うだけ…。松本も痺れを切らし、沖田に自分が食事を運んだ。 「沖田、入るぞ」 襖を開ければ、布団の上でぼんやりと外を見るように窓を見つめていた。 松本が襖を閉めた音でやっと気付く。 「…これは困りました…。松本先生が直々に来られるとは…」 苦笑いする沖田の膝の上に御膳を置き、じっと座った。 食べるまで居る気だと感じた沖田はちらりと松本を横目で見る。 「わしは医者だ。そうやって何日も食べずにいるのは逆に体を朽ちらせる事を早めると知っておる」 「………」 「佐倉を置いてきた事を悔いるのはわかるが、食わぬという事は食べ物に失礼だ」 ニッコリ笑って優しく促す。沖田は下唇をキュッと噛み締め俯いた。 「…悔いてはいません…。ただホントに食欲がないだけなんです」 「ハッハッ。お主は佐倉の話題になると芝居が下手になるのぉ。惚れた娘に背を向けて来て、悔いぬ男はおらんぞ」 松本の言葉に悔しそうに顔を少し赤らめる沖田。 「……松本先生にはお見通しだから困ります…」 「お主は顔に出やすいからな」 ふふふ…と黒い笑顔と温厚な笑顔で笑い合う。 「ところで…何を考えておった」 「姫乃さん…泣いてないかな…と」 …- そんな沖田の考えに気付いているのか… 『もうっ、怪我人にいたずらしちゃダメって言ってるじゃないですかー!原田さん達、今日こそは許しませんよ!?』 「うお?!姫乃ちゃんが来た、逃げろ!!」 むしろ怒って原田達を追いかけていた。 姫乃が追いかけ始めた頃、調度襖が開いた。 「お前も病人がいる部屋を走るな」 『ひ…ひひゃいれす!ふくひょ…!!』 「先日の言葉はどうした。暴れるために袴はいたわけじゃねぇだろ…姫乃??」 土方が姫乃の鼻を摘み暴れる事を止める。土方の後を日比谷が入って来た。 「すみません!姫乃ちゃん見て……副長姫乃ちゃんが!!」 「…あ、すまん」 パッと離すが、窒息寸前。
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