激-弐-

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林は確認しながら地図の上を指でなぞった。 「…これで戦をなさるおつもりですか…??」 「まさか…。この地図…配置は今現在のものです。一刻でもたてばすぐに変化しますよ」 ハハッと笑いながら地図を破る。林は驚きはしなかったが、腕を組み呟いた。 「…流石は…土方流ですな」 「…酒は戦が終わってから酌み交わしましょう…」 林は土方を大層気に入っていたため、一緒に戦をする事を楽しみにしていた。が、土方はそれよりも気になる事があった。 「…近藤さんはいかがでした」 「あそこには名医がいるらしいですな。本人が言うには大分良くなったそうですよ」 「……そうですか…」 ホッと安心した。 「沖田さんは…お痩せになられた…。顔色もあまりよくないが、佐倉さんの話しをするとまるで少年のように嬉しそうに笑って…いやはや…お若いですな」 「…権助さん…姫乃の前で総司の話しは…できるだけしないでやってください」 笑っていた林の顔から笑みが消える。土方は間接的に林に話した。 「…これは…。すみませんな、てっきり二人は了承しているのかと…」 「総司のそんな顔を見ていたなら無理もないです。心底、姫乃に惚れてるようですから。」 視線を落とすと破っていた地図を近くの火鉢にほうり込む。途端に地図は燃え始めた。 「…土方さん…変わったよ」 林の言葉に土方はすぐに望遠鏡を出して、奉行所の所から二十メートルほどの距離にある薩軍の本拠を見た。 「……増えましたな…。権助さん達の増強に、対応したのでしょうね」 「目にもの見せなければ引きそうにないですな」 苦笑いしながら山の風を背にして林は引き返す。土方は望遠鏡から目を離し、冷たい風を受けて林に続いた。この時、土方が何を思ったのか……。 …- ガシャガシャ…ザワザワ…ガヤガヤ… 慌ただしくも着々と戦の準備が夕方には整った。 「…日比谷。姫乃はどこだ」 「たぶん…山崎さんの所だと…」 望楼から戻ってくるなり早足で日比谷の言う通り、山崎の部屋へ向かった。 その時すぐ東方の伏見に聞こえる程、轟音な大砲の音がした。 「…ちっ…始まったか…」 あわてふためく隊士達に、不敵に笑う腕に自信がある者。 土方はドカドカと歩いた。 「姫乃!」 『あ、お帰りなさい副長。今すごい音が』 「準備出来てるな。出るぞ」
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