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まだ始まったばかりの戦にこれ程の死傷者が出るのは異常だと、姫乃は感じた。
周りを見ると瀕死の状態だが、気付けば生きようとする者に励まされていた。
「…俺さ…っ…姫乃ちゃんがいてくれて…よかった…よ…。こんな可愛い子にさ…最期…見届けてもらえ…るんだからさ……」
『変な事言わないで下さい。まだご家族がいらっしゃるでしょう…??皆さんの最期はここじゃないです。いつか、お祖父さんになってお孫さんの顔を見ながら家族の元で最期を迎えるんですから』
ニコッと笑いお水持ってきますと井戸へ向かった。
ふらつきながら井戸場につくと膝をつき、吐いた。
「姫乃ちゃん!!」
『…ハァッ…ハァッ……』
鍵がついた裏口から入ってきて慌てて近づく日比谷は姫乃の背中を摩った。
あれだけの血と死体を次々と見ている。…なのに自分にできる事は少なく、限られて悔しくて堪らなかったのだ。
肩を震わせるそんな姫乃をまるで自分と重ねて見ている日比谷は歯を食いしばった。
『……して……』
「え??」
『どうして…沖田さんは…来てくれないんですか……どうして!!』
日比谷の着物を掴み引っ張った。するとぽろぽろと目から雫を零した。
「姫乃ちゃん…!?」
『約束したのに…!!見つけて拭ってくれるって言ったのに…どうして来てくれないの!!!どうして私を一人にしたの!!!』
「姫乃ちゃん!!沖田さんの事は今は忘れるんだ…!!」
自分の胸に寄せ抱きしめた。姫乃は涙を流し虚ろな目で力が抜けるのを感じた。
『……嘘つき……』
…-
「鉄砲くれ!!」
奉行所表門では薩軍の銃隊が乱射してくる中、林が指揮をとっていた。
「準備はまだか!?」
会津の銃隊に急がせるが、こちらは旧式の火繩銃が多く、準備に時間が掛かり過ぎるのだ。
乱射の中、時間稼ぎをするかのように大砲の弾を繰り出すが松林に邪魔され肝心の敵陣に入らない。
「……斬り込むか…」
これ以上は時間と弾の無駄だと悟った林は刀槍隊を呼び突撃を命じた。
しかし、案の定…十メートルも進まぬ内に先峰は銃弾のため死骸となってしまった。
死骸が出る度に林は悔しそうな顔を見せるが、「もう一度」と刀槍隊を突撃させる。
三度まで突撃したが死骸を作るだけで終わった。林は自ら出ようと刀を持ち、長槍を持ち振り上げた。
「ぐ…っ!!!」
銃弾が響き、その場に座り込んだ。
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