激-弐-

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会津兵が指す方を見ると林は路上に座ったまま射撃の指揮をとっていた。 土方が近寄ると林は笑った。 「これはこれは、土方さん。よくお戻りで」 「…やられたようですね…」 「なぁに。玉が入ってるだけですよ」 林の顔色がよくない事に気付いた土方は呟くように言う。林は依然、笑っているが土方は眉を寄せていた。 「…危ないですよ。火を持ってちゃ、的になってしまいます」 言うや否や、銃弾が飛んで来て土方の松明が飛ばされた。 やれやれと拾おうとすると、別の手が拾い照らされた。 「どうやら、敵の発砲状態を総合すると市街地にあまり人数がいないみたいです。本陣の背後に回って南北から挟み撃ちにするのはどうですか??」 照らされた顔は会津藩別選隊長で家中でも勇猛と知られる人物、佐川と言う男だった。 佐川は土方の言葉になるほどと頷いた。そしてすぐに幕軍の伝習隊を集め指示を始めた。 先鋒は新撰組だ。これは林の意見。蛤御門ノ変の時も伏見市街で新撰組は長州兵と戦った経験があったからだ。土方も進んで買って出た。 各隊、指示の確認をするとすぐに西へ駆け出した。 「伝習隊はあの道を北進して下さい」 両替町通の角を指し、さらに西進。すぐに南北線へと出た。 「北へ駆けろ!!止まるな!!」 土方は止まる事なく、狭い街路を突進していく。 その先には民家からいっせいに銃火が噴き上げた。止まってしまった数人の幕兵は倒れ、屍となった。 「…止まらず伝習隊はかけて下さい…」 土方は迅速に新撰組を指揮して、突風の如く民家を襲っては隠れている長州兵を斬った。 生き生きと働く隊士に土方は心強くなった。 さらに北へ駆ける一同は会津兵と合流し、ついに目的地の敵の本陣の背後に回った。 (……勝った…!) 土方は不敵に笑った。 パキ…パキ…… 『…ここで…いいかな…』 その頃、姫乃は見晴らしのいい場所に来て位置を確認した。 敵と新撰組の交戦場を見ると持っていた布を広げ、調度いい木を見つけて轟音や風にびくつきながらも懸命にしっかりと結び付け始める。 しばらくして、二、三歩離れて布を見る。少し微笑むと目を閉じては開けて…まるで何かを思い返すように繰り返した。 そして、最後に悲しそうな目で見つめ奉行所に向かった。 出てきた裏口につくと、戸を押した。しかしすぐに開いた。
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