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『……あれ…??』
姫乃は閉め忘れたかな…と考えながら、警戒して中に入りしっかりと鍵をかけた。
『良太郎さん、すみません遅く』
「姫乃ちゃ…っ…逃げ…ぐぁあ!!」
「…べらべら喋るな…」
我が目を疑った。
今、目の前で日比谷が斬られた。一瞬の出来事に姫乃は目を見開いて固まる事しかできない。
部屋は血に染まっていた。僅かな命を紡いでいた隊士の生気も感じない。
『…良太郎…さん……?!…皆さ…っ…』
「あんたで最後だよ。ありがとうな。ご丁寧に裏口開けてくれて」
冷酷に笑う敵を見ず、日比谷に駆け寄る。まだかろうじて息をしていた。
『…っ…良太郎さん…!!』
「…逃げ…るんだ…!君は生きて…沖田先生…に……」
グサッ…!!!
『…………』
「黙って死ぬって言葉を壬生浪は知らねぇようだな。黙って消えるのが武士だろ」
呆れたように日比谷を踏み付け最後のとどめを刺す。
『……けて……』
「あ…??」
『足を退けて!!!!』
ゆっくり足を退ける。
息をしていない日比谷をすぐに庇った。そして自分の着物の裾で血を拭ってあげようとした。が、首元を掴まれ軽々と持ち上げられた。
「…なんだよ…その目…」
姫乃は涙を流しながら蔑んだ目で睨む。
『…貴方は…武士なんかじゃない…!!』
「はぁあ??」
『私が知ってる武士は…優しくて照れ屋で、人の事茶化したりいつもニコニコ笑って…子供みたいに拗ねたりして…でも…“人”を斬る事はしませんでした…!!』
自分の首根を掴む相手の手をギュウッと握り、下唇を噛み締めた。
首根は掴んだまま姫乃を降ろす。
「…武士じゃねぇよ。そいつ。ただの小物じゃねぇか」
『いいえ…武士です…何もかも斬り伏せる貴方の方がよっぽど小物です!!』
…ドシュ…!!
『………え…』
ゆっくりお腹に視線を落とした。貫かれている。血が滴り落ち、ゆっくりと相手を見上げた。
「…武士の時代なんて終わるんだよ…」
勢いよく刺された刀を引き抜かれると、姫乃はまるで時間がゆっくりと流れるかのように膝をつき倒れた。
敵もいきなり背後から来た新撰組に驚いた。しかし、怯む事なく薩摩は得意の銃部隊を路上に突撃させ、乱射戦を展開し凄まじい白兵戦を起こした。
敵味方、ただ路上で戦った。
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