激-弐-

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「ハァッ…ハァッ…上の命令で…っ高瀬川の弥左衛門橋の向こうまで退却するそうです…奴ら…逃げやがった…」 「…ほう…」 土方は顔色一つ変えず、人事のように頷いた。 「しかし…薩長は追撃をしてこないな…追撃する余力がないか……」 「土方さん…俺達は踏み止まるぜ」 新撰組隊士達は揃って答える。土方はニッと笑うとすぐに負傷者の護送を会津藩に依頼した。 その直後、薩長兵が襲撃してきた。土方達は刀を振るい、北へ駆ける。新撰組約六十人。残留した会津兵が続いた。 弾丸で倒れる仲間がいても、敵軍に飛び込む他、方法がない。 この時皆、姫乃の事を思い突き進んだ…。 両軍、激戦し再び凄まじい白兵戦となった。圧倒的に新撰組が押しているとなると、敵は退き始めた。 「追うな…!」 土方は隊士の足を止めた。貴重な兵力がさらに減っては主力と衝突した時、全滅してしまうからだ。 「…退くぞ……退け!!」 両軍退却とは妙な戦だが、新撰組は臨時頓集所に戻った。 六十人からさらに減り、土方は眉を寄せた。 頓集地点につくと、幕府総督からの使番がきていた。 「高瀬川の西岸まで退いていただきたい」 納得のいかない土方は聞き出した。 「豊前守の命令で…た、高瀬川西岸に踏み止まり、築造兵をして野戦陣地を構築中との事です…っ」 「…大阪まで逃げたのかと思った」 使番の言葉に土方はククッと喉を鳴らし笑った。 「親切で悪いが、新撰組と会津兵はここで踏み止まる」 「し、しかし…敵の包囲を受けます…!」 「我々は踏み止まる」 土方の強情さに使番は帰っていったが、すぐに二人目の使番が来た。 「後退していただきたい」 「…西岸の陣地はできたのか??」 苛々している土方は睨みつけながら聞く。使番はびくつきながら土方をちらちらと見た。 「ま…まだです」 「ならばこうしよう。後退はする。が、西岸の陣地が出来上がるまで我々はここにいる」 使番はすぐに走って戻り、次に来た時は陣地完成の報告だった。真夜中の出来事であった。 陣地に着いた土方は隊士達に仮眠を取るよう指示を出す。そして自分も近くの木の下に座り目を閉じた。 あまりにいろいろな事が起こりすぎ、土方は姫乃の死をまだ理解できていなかった。 いつの間にか眠っていたらしく、日が昇っていた。 思い体を起こし、やはり最初に思うのは姫乃の事。
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