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土方らは川べりを徒歩で下り、負傷者を船に収容して大阪へ下った。 その間にも思い続けたのは「負け戦」そして「姫乃の死」どちらも認める事が未だにできなかった。もちろん、他の志士も同じだ。 大阪にはたくさんの堕ちた浪士でごった返しになっていた。 しかし、西南の天に大阪城の天守閣が見えた。 「見ろよ土方さん」 原田が天守閣を折れた槍で指す。そんな原田の仕種が気に食わなかったのか、ふっと横目で見るが何も言わなかった。 威勢のいい原田はこの「負け戦」ですっかり気落ちしていた。他の隊士も皆、同じような顔で歩いている。 一同は新撰組宿陣に当てられている大阪代官屋敷に入った。堂々たる屋敷は、今まで死線をくぐり抜け緊張で張り詰めていた隊士達の気を和らげ安心させた。土方はそんな隊士を見て、大部屋で休ませてほしいと頼む。そして自分は荷物を置くと汚れたまま、近くの代官屋敷の者に尋ねた。 「近藤はどこの部屋ですか??…総司……沖田総司も…」 屋敷の者は近藤の居場所は知っているようだったが、沖田の名前を聞くと首を傾げる。 屋敷の者の様子に土方は苛々して、荒っぽく永倉に「隊士を頼む」と言い残し下屋敷に向かった。 馬を繋いでいる場所を通りすぎるとすぐに下屋敷の玄関についた。土方は緊張していた。沖田に告げなければならなかったからだ…。 足取りが重い…息が詰まる。しかし、土方はしっかりと敷居を跨ぎ中に入った。空は雲っていた。 「近藤の部屋はどこです」 廊下を歩きながら歩兵らしき人物に尋ねる。 「近藤…??最近入ってきた新入りかい??」 「…わからねぇのか…。近藤と言えば新撰組局長の近藤に決まっている!!」 土方は吠えた。歩兵は小さく悲鳴を上げると、震える声で部屋を教えた。 『ダメじゃないですか!そんな風に怒鳴っては…初めてで慣れてない人は怖がってしまいますよ』 「姫乃…っ………クソッ…」 後ろを振り返るが何もない。悲痛な顔でどすどすと歩く土方はさらに苛々が増していた。 教えられた部屋に着くと、一度深呼吸をして障子に手をかけた。が、小刻みに震えている。構わず開けた。 「おぉ!戻ったか、歳!」 「……あぁ…負けた…」 入るなり土方は近藤の顔を見て、少し安心したが心から安心する事はできなかった。近藤は土方が自分に気を遣っているのではと、思いなるべく励ますよう笑った。
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