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夏吉――いや、奈都は、返事をしながら今朝の土方を思い出していた。
『絶対に女だと知られるんじゃねぇぞ』
これでもかというくらい、眉間に皺を寄せた土方の言葉。
こうして奈都が外に出ていると言うのも、土方は気にくわないのだろう。
(まだ軟禁の身なんだから、ちょっとでも逃げる素振りをみせたらスパァっと……)
嫌なビジョンが頭をよぎり、慌てて消す様に頭(かぶり)を振った。
(今日は大人しくお使いだけ済ませないと……うん、そうしよう)
なのにどうしてだろうか。
奈都がそう決めたことは、ことごとく崩されてしまうようだ。
「じゃあまずは傷みにくい野菜から……あ――れ?」
周りは、人の波。
だが、360度見回しても、淡麗な沖田の姿は見えなかった。
「うッ、そぉ……」
――全身から、温度が抜け落ちた気がした。
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