第六話:お前はダレだ

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夏吉――いや、奈都は、返事をしながら今朝の土方を思い出していた。 『絶対に女だと知られるんじゃねぇぞ』 これでもかというくらい、眉間に皺を寄せた土方の言葉。 こうして奈都が外に出ていると言うのも、土方は気にくわないのだろう。 (まだ軟禁の身なんだから、ちょっとでも逃げる素振りをみせたらスパァっと……) 嫌なビジョンが頭をよぎり、慌てて消す様に頭(かぶり)を振った。 (今日は大人しくお使いだけ済ませないと……うん、そうしよう) なのにどうしてだろうか。 奈都がそう決めたことは、ことごとく崩されてしまうようだ。 「じゃあまずは傷みにくい野菜から……あ――れ?」 周りは、人の波。 だが、360度見回しても、淡麗な沖田の姿は見えなかった。 「うッ、そぉ……」 ――全身から、温度が抜け落ちた気がした。
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