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レイチェルと白い狼は湖のそばに座ったまま、何も語らなかった。
いや……彼女の場合は、話しかけづらかったのだ。さびしそうな顔でじっと空を見あげる彼に……どうしても話しかけられなかった。
空はオレンジ色に染まりつつあり、遠くに見える太陽が沈みはじめていた…。
「――なぁ、町でのくらしって……楽しいか?」
「え…?楽しい……けど?」
突然彼の方から話しかけてきたため、少々驚いたが、レイチェルは答えた。
「――そっか。オレも、早く戻りたいな……。」
それきり彼は、また口を閉ざしてしまった。
「ねぇ。ひとつ聞いても……いい?」
おそるおそる話しかけたが、彼は意外にも、こっちを振りかえってくれた。
「ん?……何?」
「名前。あなたの名前……教えて?」
白い狼は視線を空に戻し、また黙り込んでしまった。
「ダメ……なの?」
白い狼は答えない。
「……。私はレイチェル。レイチェル=ファイス。」
レイチェルはさびしそうに自らの名を言った。
しかし、彼の反応は……ない。
レイチェルは立ち上がり、ため息をついた。
「じゃあ私、家に帰るね。」
レイチェルが彼に背を向けたとき……ふと声がした。
「――アキラ。……アキラ=ゲイツハルト。それがオレの……名前。」
風が吹いて、レイチェルの髪と白い狼……アキラの白い毛が、風にゆれた。
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