第2章 フォビア

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男の子が物心付いた3歳位の時には託児所という場所、ピンとこない人には保育所という言い方のほうが分かり易い。そこに姉と2人で預けられていた。多分コレが少年の最も古い記憶だろう。 そこには、(お子様をお預かりいたします)というようなシステムっぽさは無く、長家の一軒を住まい兼託児所にしたその家には、家の主人、妻、高校生の息子と、中学生の2人の娘が住んでいて、男の子と姉の2人以外預けられていなかった。 朝9時に託児所に預けられ、夜10時に母が迎えに来るのだ。男の子は母が迎えに来る事が泣くほど嬉しかった。母の顔を見ると毎日泣いていた。 帰り道では毎日その日託児所で何があったのかを一生懸命になって母に伝えたが母は何も答えてはくれなかった。 「もうあそこには行きたくない!」 と、ダダをこねても、母は何も答えてはくれなかった。青タンを見せても、火傷の跡を見せても。母は何も答えてはくれない代わりにいつもオンブをしてくれた。そうすると男の子はすぐに元気になった。そしてすぐに眠たくなった。代わり番こでお姉ちゃんがオンブして貰うとヤキモチを焼いたが、男の子の体が痛すぎる日はお姉ちゃんはオンブを我慢して弟に譲った。体の痛みも母の背中が治してくれた。 男の子には父親がいなかった。見たこともなかった。男の子にとってそんな事はどうでもいい事だった、母さえいてくれれば、それで満足だった。母さえいてくれれば。 男性にとって、たぶん女性にとっても、いつの時代も、母は人気No.1だ。
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