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真っ暗な中、男の子はプールに忍び込んだ。パンツ一枚の水遊びはすぐに用務員に見つかり、そのまま用務員室に連れて行かれた。
ただイタズラでプールに遊びに来たわけではないと、用務員さんはその時の時刻と男の子の雰囲気から判った。
「どうしたんだい?」
用務員さんは男の子に聞いた。
「あそんでた」
「こんな夜中に?」
「うん」
「……お母さん心配してるから帰ろか、一緒にいってあげるから」
「やだ」
「……どうして?」
「お母さんキライだから」
男の子がそう言うと、用務員さんは部屋の台所からカップラーメンとロールケーキを持ってきた。
「食べていいよ」
男の子はまるで自分の考えている事がこの用務員さんには分かっているような、心を読まれているような、それと似た気持ちになった。用務員さんは男の子が食べ終わるのを見て、
「よしっ!帰ろうか」
男の子は、
「うん!」
手を繋いで家まで送ってもらった。
アパートは一階にあり、造りが薄く、道から部屋の中が見えていた。母親の背中も見えていて、出てきた時と変わらぬ状態でテレビを見ていた。
男の子が、
「…ここだから、……ありがとうございました」そう言われた用務員さんは少しためらった後、
「じゃあね、バイバイッ」
そう言って帰って行った。
「………………」
男の子はしばらくその場にしゃがみ込んでいたが、目一杯の勇気を振り絞ってドアのノブを回してみた。
「ガッ」
……どうやら鍵が掛かっているみたいだ。
男の子はまたしゃがみ込んでしまった。
すると後ろから、
「一緒に謝ってあげるね」
もう帰ってしまったと思っていたあの用務員さんだった。
コンッコンッ
「すみませーん」
…………………ガチャ
ドアが開いて母親が出てきた。用務員さんとなにやら話している。
「本当にわざわざすみません、ご迷惑お掛けしちゃって」
母親はペコペコと頭を下げている、
「それじゃあ失礼します」
そう言うと用務員さんは今度こそ本当にに帰って行った。
男の子はそのまま布団に入り込んで眠った。
つい先ほどまで用務員さんと話しをしていた時と、ドアを閉め鍵を掛けた時の情報母親の表情の変わりようは、男の子に、今まで味わった事の無い恐怖と悲しみだった。
この日を境に男の子は母親に甘える事を忘れた。
幼稚園にも行かなくなった。
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