9~小田原にて~

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9~小田原にて~

日曜日の朝10時。 太一に車で小田原駅で拾ってもらう、約束の時間だ。 私は今だに小田原に住んでいて、太一も今だに平塚に住んでいる。 約束の10分前に駅前のロータリーに着いた。 誤解の無いように言っておくと、今回小田原で待ち合わせになったのは、太一が場所を指定して来たからで、決して私が小田原まで彼を呼び付けた訳ではない。飽くまでも自主的にこちらまで来てくれるのだ。 ぶるるるるっ… 携帯が震えている 「もしもし」 「瑠璃、ごめん!道が混んでるから、30分位遅れそう!どこか喫茶店でも入ってて!」 やはり小田原のような場所の近辺も、ゴールデンウイークとあらば道は混むのだ。 「あ、うん、ありがとう。でも勇にお土産って渡されたワインが三本もあって…ウロウロする方がくたびれちゃうから、このまま待ってるね。また後でね、宜しく。」 電話を切って、辺りを見回した。 どちらにせよ、コンビニや不動産屋はあるものの、気軽に入れそうな喫茶店は見当たらなかった。 荷物とワインの入った紙袋を地面に置いて、一息つく。 旅行は毎年、年に数回行くが、いつも大概何かしら忘れ物がある。 去年のゴールデンウイークに勇と沖縄に行った時はビーチサンダルを忘れ、夏休みに北海道へ行った時は化粧道具一式を忘れた。冬休みの女友達とのバリ旅行では、コンタクトの洗浄液を忘れた。 幸いどれもお財布やパスポートのように、致命的ではないが…無ければ無いで、かなり気持ちが落ち込むものばかり。 今回は何も無ければ良いのだけれども…。 ふとワインを見やる。 勇は本当に不思議な位しっかりしている。 「みんなに、お土産。宜しく言っておいて。俺行けないからって、瑠璃に悪さするなよ!ってね(笑)」 まだ結婚もしていないのに、まるで旦那さんみたいな勇。 今回一緒でないのが、本当に残念な気持ちでいっぱいである。 時計を見るとあと15分で10時半だった。
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