46人が本棚に入れています
本棚に追加
都内の商社へ事務として入社してから、二年が過ぎた。
私は春という季節は、あまり好きではない。
花粉症のお陰で鼻周りや目元の化粧はことごとく崩れるし、会社ではまだ学生気分の抜けない新入社員に手を焼く。(もっとも私自身も会社の中ではまだ「新人」の部類として扱われているのだが…。)
春先の会社が好きではないのは、なにも自分の仕事をやりながらも新人に仕事を教える事が煩わしいというものだけではない。
冬を過ぎ、せっかく落ち着いてきていた職場の人間関係に、春からまた気を遣い直すのは本当に億劫だ。毎年新しいチームにリセット。
義務教育のクラス替えと同じ位不快なものだ。
そして新人たちの様子といえば、考えただけでうんざりするようなもので。
誰彼構わず軽口をたたく新人。仕事の覚えが悪く、課長の機嫌を損ねるのが得意な新人。香水の匂いをぷんぷんさせ、男性社員の物色ばかりする新人。妙に張り切り、少しでも気に食わない仕事があれば、上司相手にも物申す新人。
男女問わず、まぁイロイロと…ね。
そんな中、隣の営業二課の事務をしている常に柔らかな人懐っこい笑みを浮かべている新人、久保加奈子には好感が持てた。
仕事が特別出来るという事もないが、礼儀がありながらも堅すぎず、人と良い距離感を保つセンスみたいなものがある。
そんな加奈子と仕事以外で初めて話したのは、ゴールデンウイーク前の木曜の昼だった。
私が同じ一課の新人が戻ってきたので、交代で昼食の為に部屋を出ようとしたところだった。
後ろから小走りにパタパタと足音をさせながら
「先輩もご飯ですか?」
あの人懐っこい笑顔で話しかけてきた。
「あの~、もし良かったら私もお昼、ご一緒しても良いですか?」
パチクリしながらも、快く承諾した。
最初のコメントを投稿しよう!