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「薔薇が全部背負う必要なんてないのよ? 不幸請負人になるつもり?」
何年か前、一緒に丘で流星群を見に行った時の事だった。
暗闇に散りばめられた無数の星と、走っては消える流れ星の軌跡。
そんな空の下で、シェロンにそう言われた。
「力があるなら、弱き者の痛みや苦しみを引き受けていくべきだと思いまして…」
「ホント、貴方って優しすぎるわ。でも、それは本当にその人の為になるのかしら」
シェロンは傍らに咲いていた綿毛の蒲公英を摘み取り、そっと吹いて種を飛ばした。
「…確かに、痛みや苦しみは味わいたくないもの。でもね、それは自分を成長させる糧にもなるの。時には自分で何とかしなくてはいけない事だってある。頼ってばかりいては駄目なのよ」
「それは、シェロン自身の事でもあるんですか?」
シェロンには家族や親族がいない。
薔薇と出会う前からいないと、シェロンから聞かされていた。
孤独になってしまえば、頼れるのは自分だけ。
シェロンは自分自身の力で、薔薇と出会う時までを生きてきた。
それを思えば、シェロンが言っている事は納得にも近い。
「私、なるべく人には迷惑を掛けたくないの。だから、薔薇は私の痛みや苦しみを背負わないで? 私の為にもなるし、貴方の為にもなるから」
「それで、シェロンは大丈夫なんですか?」
「全然平気。生きてるだけでも幸せだし、貴方と出会えた事だって幸せ。私はもう十分幸せを味わったから、これからは貴方の幸せを願うわ」
「シェロン…」
シェロンは目を閉じ、手を組んで祈りを捧げる。
茶色の髪が風に靡き、辺りは暗い筈なのに何処か神々しさを思わせた。
しかし、彼女はもういない。
この手で守りきれなかったのだから。
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