冬の君

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 12月16日(金)曇り  今しがた、陰鬱なテスト期間が終わった。  こんな日ぐらいは晴れてくれればいいのにと、窓の外の分厚い雲に覆われた世界を見て、思わず溜め息をこぼしてしまう。  そんな外の景色と同じ陰気な顔をした俺の席に、友人の大隈がやって来て一枚の紙切れを差し出した。 「何、コレ?」  と、大隈に尋ねると「紙に書いてあるだろ」と言いつつも説明してくれた。  それは、町内会で毎年恒例になっているマラソン大会の案内のビラで、優勝商品が最新のマウンテンバイクになっている。大隈はこのマウンテンバイクが欲しいらしく、かと言って一人で出るのも嫌だから、一緒に出たとしても負けないだろう俺を誘いに来たのだそうだ。  完全に舐められているとは思うけど、実際俺よりも大隈の方が少しばかり足は速い。それでも、俺達より早い人はこの町内に結構いるから優勝は無理だとしても、準優勝の賞品が前から欲しいと思っていたDVDレコーダーだったので、物に釣られているとは自覚しつつ、兎も角一緒に出ることにした。  その帰り道、近所の公園に通りかかると、その公園のベンチに女の子が一人、ポツンと座っていた。 その事自体は特に不思議でも何でも無かったから、 (何してるんだろ?)  と少し思っただけで、その場を通り過ぎた。
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