狩人戦記0.5~武の誇りと碧い眼~

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 空を自由に飛ぶことのできる鳥は大空から地上を見渡せるが、人間には翼はない。  気球というものが近年になってようやく使える段階に入ったそうだが、それでもまだ人間は自由に空を飛べない。  天候が変われば使い物にならない気球では、世界を直に見渡す事はできない。  鳥や、それこそ竜のような翼がない人間には、まるで神が世界を知ることを許していないような、識る権利がないように、多くの人間はこの世界の未知を未だ知らない。  まだ知りえない秘境、まだ見ぬ絶景、というものは数多く存在しているのだ。  西の大地――そこも、そんな未知の領域の一つとされている。  その領域は自然によって完全に独立した状態である。名前を知っている者がいても、実際に現地に足を運ぶ者など一体何人いることだろうか、そこに踏み込んで生還できた者が何人いる事だろうか。  つまり、西の大地とはそういった場所なのだ。人間や生半可な生物は寄せ付けない、あらゆる災害と天災を一点の空間に凝縮すれば……まさにそんな場所だ。  この地を詳しく知る者はいない、災害に太刀打ちできない、空を自由に飛べない人間は永久に、この西の大地に隠された謎も、大自然の先にあるもの、この地の全貌も、何もしる事はないだろう。  もちろん、あえてここを拠点に選ぶような組織、クライガムがあるが、それも果たしてこの地を知り尽くしての事ではない。  そう、世界最大の脅威とされる大組織でさえもが、知る事が叶わない。  それでも……飽くなき探究心、此処に高次への布石と成り得る何かを求める者達は誘われるままに、何者をも拒絶し続ける領域へと……。 「…………」  どこか、部屋の一室……窓際の椅子に腰掛ける一人の青年が手にしていた書物から目を離し、誰かに呼ばれたように空を見上げた。  空が彼を呼んだわけではない、誰かがそこにいるわけでもない。 「ようこそ、初めましてか……」  今度は彼が語りかけた。  高き蒼は何も答えようとしない、だから彼はこの西の大地に踏み込んだ来訪者へ、語りかける。 「お前は、何を求めて此処に……?」  碧の彼は既に彼の来訪を察していたのかもしれない。  碧い眼は、遥か遠くを見通していた。
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