狩人戦記0.5~武の誇りと碧い眼~

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 緩やかに流れる水面、彼は川原の岩に腰を下ろし、その流れに指先を浸けた。  ようやくの休憩のように一息ついて、周囲を見渡す。微かな水の流れる音を頼りに歩き続けたのが正解だった、そう思いながら彼は、龍ヶ丘界無は水を口にする。 「さて、どうしたものか……」  呟いて、横目で水面に映っている自分の姿を見た。  微妙にブレているその鎧姿、いくつもの強固な金属板を硬い紐や布で重ねるように繋ぎ合わせた、各部には漆や金箔、金属板を繋ぐ色糸などの装飾が施されている。  兜から覗く黒髪は長く、腰にはそれぞれ違った雰囲気の刀が三本。その顔付きや格好などからも異国の者であることが窺い知れる。 「…………」  周囲を見渡すが、川の向こう側は岩壁が続くのみ、このまま川に沿って進むとどこにでるのか分からないが、どうも先にある深い森に入ってしまいそうだ。  もっとも、今更来た道を引き返すつもりはないのだが、目的地に辿り着けない旅路は妙に気分が削がれる。  『碧眼の天才』――噂では、西の大地のどこかに住んでいるらしい。  どの情報にもあるのが驚異的な、英雄の名声を掴み取れるに十分な力、全てを超越した存在……共通しているのが、異常な強さ。  それほどの者が未知の領域、西の大地に住んでいる……絶界にその身を隠した、碧眼の天才、界無の興味を引き付けるには十分過ぎた。  そして西の大地に踏み込み、集めた僅かな情報を頼りに向かっているのだが、今だ辿り着かない。  よく考えると、この土地に関するまともな情報が得られるはずもなかった。  今の界無はどこへ向かうかも分からない、土地勘のみで進んでいた。 「まったく、こんな場所で人探しとはな」  どうしたものか、少し考えながら頭の中で集めた情報と現地の環境を整理する。話に聞いた何箇所かは、どこも人が住んでいる痕跡すらなかった。 「そういえば……」  とある森を抜けた先にその人物がいるとの情報もあった、森ならば川に沿って進んだ先にあるのだが、実際にそれを見てみるとまさか人が住んでいるとは思えない。 「いや、真偽は何も分からないのだ。ならば……」  こうなればと、あらゆる情報の疑念を振り払って界無は立ち上がり、川の流れと向きを同じくして歩き始めた。
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