狩人戦記0.5~武の誇りと碧い眼~

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 傷付き、満身創痍の竜が血を振り撒いて抵抗している姿は痛々しい。 「こいつは西の大地の新種だ、分かっているな、サンプルにするには生きたままの方がいい」  リーダー格のような一人が遠くから仲間に命令し、数人が小型の機械を起動させるとそれぞれが電流で繋がり、まるで電磁ネットのように展開した。  彼らは機械ごと電磁ネットを投げ付け、それが覆い被さった竜の全身には肉眼で確認できるほどの激しい電流が弾けた。 「よし、あとは気絶するまで……?」  しかし、此処は西の大地、極限の環境下で研ぎ澄まされた生命力は常識を超える。  これまで流れていたものよりさらに激しい電流が一瞬、それは爆発したように弾けたかと思うと、力強く炎が燃え上がるように真紅の翼は広げられた。  電磁ネットから逃れられた竜はそのまま飛び立とうと、今にも墜落しそうになりながらもゆっくりと風を巻き上げる 「クッ、なんてやつだ……まさか最新の捕獲装置を破壊するか」 「だが、それだけに実験体のサンプルとしては十分だろう!!」  三度、真紅の竜に向かって銃口は向けられる。今度弾幕の餌食になれば、この場から逃れる事はもう叶わないだろう。  卑劣な狩人達はこの時点で獲物を確実に仕留めたと思っていた。  あと少しで貴重なサンプルが手に入る、十数人が同じ標的に向かって引き金に指を掛けた。  そう、次の一撃で全て決まるはずだったのだが……。 「解せんな……」  そう言ったが早い、界無は携える刀の一つ、柄に手を掛けた。  すぐにはそれを引き抜かず、低く構えてから少しだけ柄を握る手を動かした。  揺らめくように刃が煌めく。何も気付かないでいた愚者の半分ほどは鎧を粉々に砕かれ、多方へ散々に吹き飛ばされている。  残された半分はさらに混乱した様子で慌てて振り返り、先程無視して素通りした男からの予期せぬ襲撃に戸惑いを隠せていない。 「貴様っ、貴様、一体何者――」  しかし、その界無の姿を見た途端、彼らは身体が固まってしまった。  あまりに圧倒的な違い、格の違い、実力の差――ただ、その姿を確認しただけで、その覇気や威圧の前に身体が動かなくなってしまったのだ。
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