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大量の魔力を消費する転移魔法を勢いで使ってしまった為に、こめかみ辺りから大量の汗が頬を伝っている。だが拭う事すら辛いのか、それが顎から滴る気色の悪さにも甘んじて耐えていた。
似合わない男物の茶のローブが、彼女が一歩一歩歩く度に焦茶の染みを作る。
「ちっ」
――やはりそうとう辛いらしい。ノエルは舌打ちすると木陰に身を隠す様に座り込んだ。深呼吸を何度か繰り返し、自身の鼓動を何とか納める事に成功する。
そして最後にもう一度、と胸に手を当て、大きく息を吸い込んだ。
「あら? どこのお嬢さんかしら?」
「うっ! げ、げほっ!」
突然、背後からのんびりとした口調で声を掛けられた。
慣れない魔法を使った弊害か。
普段なら近寄る気配に気付かぬ筈はないのだが、全く気付けなかったノエルはその自分に驚き呼吸を乱し、激しくむせてしまった。
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