暗闇

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 男は、ただひたすら走っていた。  もう街道はとっくにそれていて、それはもう獣道に近い程であった。  日も暮れ、辺りは闇…手に持っていた提灯も走っている途中で、どこかへ落としてしまったらしい… 男はそれほど、無我夢中で走っていたのだ。  やみくもに闇の中を、走り続ける。  木の枝にぶつかり、草で擦りむき、石にも躓いた。  それでも臆する事なく走り続けた。  闇の中で、男の荒い息遣いが響く… しばらく走っていると、目の前に川が流れていて、男はそれを確認すると勢いよく川に飛び込んだ。 息を切らせながら、手の平一杯に水を掬い、それを一気に飲み干す。 「はぁはぁ…ここまで…来れば…安心だろう」 男はそう独り言を呟くと、全身の緊張の糸が切れた様にして倒れ込む… 色々な所に体をぶつけた痛みが、今頃になって襲って来た。  よく見ると、体中傷だらけであった。  一体ここは何処であろうか? やみくもに走っていた為に、村へ帰る街道から、かなりそれてしまっている様子だ… 「くそぅ…道に迷ってしまった…しかし、さっきのは一体なんだったのだ…」 男は村に帰る途中、自分が見た光景を思い出し、体が小刻みに震える… 男が見た光景… それは恐ろしい物だった… 自分の倍はあろう背丈の男… いや…あれは男なのか? そもそも人間なのか? 夜道のせいで、姿ははっきりとは分からなかったが、異様に目が釣り上がっていて、何より… その瞳は闇夜だと言うのに金色に怪しく光っていた… そんな異様な姿を初めて見た男は恐ろしさの余り、ただひたすら走り… 今に至ったのである。
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