8人が本棚に入れています
本棚に追加
男は川の水で顔を洗うと、少し冷静に考えた…
よくよく考えれば、あれは幻だったのかもしれない…
あんな奴が実際にいるはずがないのだから…
今日は売れた傘のお代で、酒を飲み過ぎたらしい…そのせいで酔ってしまったのだ。
男は自分に言い聞かせながら、ゆっくりと立ち上がる。
酔いのせいか、走りすぎたせいか…
それとも、瞼の裏に焼き付いた恐怖のせいか、膝が笑ってフラフラとよろめいた。
その時だ。
男の後で、何かが落ちた…
水を弾く大きな音が響き、水しぶきが辺りに撒き散らされる。
「…なん…だ?」
月の明かりが雲の隙間から差し込み、辺りは少しだけ明るく見える…
川に写る自分の影が、何かが落ちた振動でユラユラと波紋を立てて揺れ動く…
その影は、明らかに自分の影より大きい…
何かが…自分より大きな何かが、重なる様にして後に立っている証拠であった。
男は先程落ち着かせた呼吸が、また荒くなるのを自分でも感じていた。
ゆっくりと首だけで、後を向く…
ゆっくり…ゆっくりと…
男は息を詰まらせた。
川に落ち、自分の後にいたのは、先程…幻だと思っていた大きな姿…金色の瞳の何者かであったのだ。
「ぁあぁあああ!」
男は思わず尻餅を着く様にして後に倒れ込んだ。
「ば…化け物…」
化け物…
その化け物は月明かりに照らされて、大きな口を開いた。
口からは無数の鋭い犬歯が不気味に光を帯び、糸を引きながら唾液を垂れ流していた…
調度、月の光が隠れたせいでそれ以外の姿は男には確認出来なかった。
ただ暗闇の中で、金色の瞳だけが不気味に男を睨み付けていた。
最初のコメントを投稿しよう!