雪が降る街。

4/10
前へ
/24ページ
次へ
「ねぇ、怜。この辺覚えてる?」     天村家に向かう途中、美雪は怜に問い掛けた。     「ん…いや、それが…頭にモヤがかかったみたいになって…うまく思い出せないんだよなぁ。」     10歳まで過ごした街なはずなのに、怜の記憶にこの街の思い出等は希薄だった。     「そっかぁ…残念。」     美雪は少し悲しそうな表情をした。     「そのうちたくさん思い出すといいね。」     そう言うと、一瞬にして柔らかい笑顔になった。     「いいのか?」 「いいんだよっ。」     怜がからかうと今度は拗ねた顔になった。     (そうそう。美雪はこういうやつだったよな。)     いつも怜の後を追い掛け、怜がからかうとすぐ拗ねる。 でも、それに悪意がないことは、お互いに分かってるからすぐに笑顔に戻る。 話していけばいくほどこの街での記憶が蘇っていく。     (でも…。)     怜の記憶には腑に落ちない点があった。     (思い出すことは悪いことじゃないはずなのに、なんで前向きになれないんだろう…?)     それは、自分自身にも分からない。 それでも確実に、思い出すことをためらってる部分があった。     「怜?」 「ん?」 「大丈夫?なんか、すっごく深刻そうだったよ?」 「失礼な。それじゃあ、俺にシリアスが似合わないみたいじゃないか。」     見透かされた気がして、少し恥ずかしくなったのでごまかしたのだが…美雪はにっこりと笑っていた。     「…ん?なんだ?」 「ううん。やっぱり怜は怜のままだなぁって。」 「なんだよそれ…気持ちわりぃな…。」     怜が吐き捨てた後も美雪はにこにこ顔だった。     「あたしは?あたしは変わったかなぁ?」 「どうだろうな…こうやって話してると、たいして変化してないようにも感じるな。」     怜が答えると、美雪はすぅっと目を細めた。     「そっかぁ…それなら、一緒に住んでもきっとまた仲良くやっていけるね。」     そう。 怜は今日からしばらくこの幼なじみの家に厄介になる。 なぜそんなことになったのか…それは、怜の父親の仕事の都合であった。 10歳の時にこの街から引っ越すことになった原因もそうだったのだが。     「俺は居候させてもらう身だ。なんなりと申し付けてくれ。」     怜はなぜか胸を張って言った。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加