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荷物を置き、コートを脱いで1階に降りると、いい匂いが漂っていた。
「怜~、遅いよ~。」
「ん、悪い。部屋でコートを脱ぐのに勇気がいるとは思わなかったんでな。」
「エアコンいれなかったの?」
「あれか…使ってよかったのか?」
「もちろんですよ。怜君の部屋なんですから。」
怜がうなずくと、志乃はニッコリと笑い掛けた。
「さぁ、シチューであったまってください。」
「志乃さん、いただきます。」
「いただきま~す。」
食べ終わって、怜は見事に手持ち無沙汰になった。
志乃が片付けと夕飯の仕上げに入り、美雪もそれを手伝いにいった。
(ホントに仲がいいんだな。)
7年と同じ…いや、怜はむしろ、更によくなってるように感じた。
天村家は昔から二人暮らしだった。
正確には覚えていないが、7年前はそうだった。
(志乃さんが母親だから、美雪があんな笑顔になったんだろうな。)
「うっわ。明日の最高気温…マイナスなんだけど…。」
「そうだねぇ…怜は寒いの苦手?」
「苦手だな。朝起きるのも大変だし。」
「あたしも朝は弱いよ~。」
二人が明日への不安に包まれていると、志乃も混ざってきた。
「怜君はこの街に住んでたんですけどねぇ。」
「でもね、怜はあんまりこの街でのことを覚えてないんだって~。」
「あら…そのうち色々と思い出すこともあると思いますよ。」
「はい。」
怜はうなずいたものの、心の中ではやはり、釈然としないものを感じていた。
(まぁ、そのうち勝手に思い出すだろ。)
「ねぇ、怜。」
夕飯を終え、話し込んでいたら少し遅い時間になり、今夜は就寝ということになった。
各々が自分の部屋に戻る時に、美雪が話し掛けてきた。
「ん?なんだ?」
「おかえり。」
「………あぁ。」
「怜、おかえりって言われたらただいまって言うんだよ?」
「…おう、ただいま。」
「うん。おやすみなさい。」
「おやすみ~。」
美雪は満足したように笑い、自分の部屋に入っていった。
(ただいま、か…。)
1週間前まではこの街にいることすら想像していなかった怜にとっては、その言葉に違和感があった。
眠りに落ちた怜は、夢を見始めた。
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